東京国立博物館蔵 地獄草紙摸本 阿鼻至地獄(鉄車)部分

 
阿鼻至の鉄車、火の車は生前悪事を犯したものを乗せて、無間地獄つまり阿鼻地獄に運ぶ。
罪人は地獄の悲鳴を耳にし、悶絶する。そして、泣き叫びながら車の中で唱える。
 「一切は唯火炎なり。空に遍し。中に間なし。四方及び四維 他界にも空しき処無し。一切の地界処には 悪人皆遍満せり。我れ今帰する所なく 孤独にして同伴なし。
悪処の闇の中に在り 大なる火炎聚に入る我虚空の中に於いて 日月星を見ざるなり」
-すべて炎がみちみち、虚空を覆い、隙間がない四方、八方はもちろん、地上でさえも火で覆われている。また、あらゆる地上は悪人がみちみちて、私の行くところもなく、ただ一人で一緒に行ってくれる連れとていない。悪い暗闇のただ中にいて、あの大火炎の燃え盛っている中に行くことになる。しかもわたしは虚空の中にいても、太陽や月や星すらみることもできないとは-
すると、地獄の獄卒は答えて言う。
「この人間界の寿命が長くなろうと短くなろうと、その長い間、大火炎は汝の身を焼き尽くすものである。愚かな者は、悪い行為を作ってしまって、今頃になって後悔するが何にもならない。これは神々や阿修羅や健達婆や龍や鬼などの悪鬼の類などがさせたわけでもないのだ。自分が作った行為の網の中で、自縄自縛となっただけである。それだから、だれも汝を救うことはできないのだ。現在、汝が受けている苦しみは、大海の水の中の、ほんの一すくいの水にしか相当しないのだ。むしろ、これから受ける苦しみは大海の水のように限りないものとなるのだ」


[解説に使用した参考書]
--だれにでもわかる地獄のおはなし--  佐藤俊明著  維摩出版
--こころを読む往生要集--  石上善應著  NHKサービスセンター発行